「あなたの未来がわかるって言ったらどうする?」
今回の書評に選んだのは、「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」(七月隆文、宝島文庫)という文庫本。(書評はネタバレなしで書いています)
読後の感想というと、読み始めはそんなに大きな期待はなかったものの、読み進めていくうちに、裏表紙の内容紹介に書いてある通り、泣きそうになるほど甘く切ない恋愛小説です。
そして、心地よい余韻を残しつつ、たしかに最初から読み返したくなります。久しぶりに心に残る恋愛小説に出会えました。
■違和感を感じても、最後まで読んで欲しい
主人公は、あまり女の子を積極的にナンパするとは思えない美大の男子。
そんな彼が、通学の電車の同じ車両で偶然見かけた、かわいい女の子に声をかけ、いきなり「一目惚れしました」と言うとか、
出会って初日にして、女の子が泣き出したり。どこかリアリティが欠けていて、読んでいて違和感を感じるかもしれません。
でも、ここで絶対に本を投げ出さないでほしいです。
上のシーンは、最後まで読めば納得できると思います。これも少し悲しくて切ないけれども、素敵な思い出になる恋愛の前触れなので。
■たしかに読み返したくなる
裏表紙に書いてある「彼女の秘密を知ったとき、きっと最初から読み返したくなる」というフレーズは、まさにその通りです。
なお、この「最初から読み返したくなる」というフレーズを聞くと、イニシエーション・ラブを思い出す人も多いかもしれませんが、イニシエーション・ラブは本当に最後の最後に今までの印象がどかーんと変わる衝撃でした。
「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」の場合は「最初から読み返したくなる」の意味がおそらく中盤頃にわかると思います。
なので、後半部分を読み進めながら、ちょくちょく最初の方を読み返したり、僕の場合はそんなことをしてしまいました。もちろん最後まで読んでから、もう一度読み返した人もいると思いますが。
「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」を読んでいて「最初から読み返したくなる」の意味がわかったときと同時に沸き起こる、切ない感情。
「最初から読み返したくなる」の意味がわかると、同時に泣きたくなる人もいると思います。
■心に残る小説です
「最初から読み返したくなる」の意味がわかってから、後半部分読み進めていくと、本当に読んでいて切なくなります。
エピローグの手前まで読むと、「ついにこの時が来たか~」、という感じになると思います。
この感情を保った状態でエピローグを読んだとき、これがまたグッときます。切ないけど愛おしいとは、こういうことを言うんでしょうか。
読後、ヒロインの女の子の気持ちを確認したくて再度読みたくなると同時に、心地よい余韻を読者に残します。
この心地よい余韻は、自分の場合しばらく続きました。ここまで心に残るのは久しぶりですね。映画化もしてほしいと感じました。
それにしても、このアイディア、作者はよく思いついたなあと思いました。
そして、思いついたとしても、おそらく書いていて頭がこんがらがりそうなアイディアなんですが、うまくそれを切り抜けている。そして、読者にその複雑性を全然感じさせない。
あまりないようで、実は小説には定石というものがあると思っており、そのうちの1つが起承転結ではないかと思いますが、その概念に果敢に挑戦した意欲作ともいえると思います。
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同じ著者のもう1つの作品を読んでみました。デビュー作の改題らしいです。
こちらは序盤の違和感のようなものはなく、すらすらと読めてしまう本です。著者のストーリーテリング技術を感じます。短編集ですが、短編集にありがちな物足りなさもなく、1つ1つが満足度の高い物語になっています。
「天使は奇跡を希う」の書評です。こちらもかなり切ない物語です。もどかしい気持ちになります。良かったらこちらも併せてご覧ください。