今のドラマって、勧善懲悪的なわかりやすいドラマがヒットしてますよね。時代劇が消えてしまった代わりに、時代劇のようにわかりやすいドラマが増えた感じです。
これはこれで全然面白いと思うんですが、個人的には、もっと切なくて悲しくて残酷で、それでいてクオリティが半端ないオリジナルのドラマが好きだったりします。要は自分好みのドラマがないような気がして、気付いたら何年もドラマを見ていない状態です。
自分が一番ドラマを見た時期というと、1992~1995年くらい、つまり中学生ぐらいの時だと思います。中学生は結構ドラマを見る年代かもしれませんが、この頃のドラマって、オリジナルでクオリティが物凄い高くて、余韻が残るようなドラマが多かった気がします。
そのうちの1つが高校教師だと思います。もちろん2003年の上戸彩のほうではなくて、1993年の桜井幸子のほうです。
当時は野島伸司ドラマの絶頂期でしたが、その野島ドラマの中でも最高峰クラスの作品ではないかと思います。(個人的には人間・失格も同じくらい好きでしたが)
野島伸司ドラマの代表作だけあって、名台詞も多い作品ですが、それはまた別記事で書くとしたいと思います。中学時代に野島ドラマを見て、作家になろうと思ったくらいなので、語りだしたら止まらなくなりそうなので。
〇残酷なのに純度が高い物語
今見ると、レイプとか近親相姦とか衝撃的な要素を積極的に扱う作品は、どこか一昔前のイメージがあり、20年以上前なので、描写に少し古臭さを感じてしまうのですが、それでもたまに見たくなるんですよね。
レイプ、近親相姦、暴力、同性愛、自殺、妊娠、殺人、火事、裏切り、まあいろんな不幸でドロドロした要素が出てくるのですが、それでいて全然湿っぽさとか重苦しさを感じないんですよね。
むしろ透明で純粋な物語として成り立たせている。しかもジャンルとしては社会派ドラマのはずなのに、崇高な純愛物語を見たような余韻。しかも見終わった後にまで引きずる強烈な余韻です。
徹底的に儚くて切ない世界観を貫き通したブレのない作品。小説だったらいくつかの賞を総取りしたのではないかと思われるほどの完成度です。
高校教師が放映されて22年もの月日が経っていますが、これほどまでのクオリティの高いドラマはまだ出てきていないのではないかと思います。
しか真田広之演じた主人公の設定が良い。すごい不器用で、幼稚で繊細で、寂しさを感じるキャラクター。よくこんな身近だけど作品を盛り上げるキャラクターを作り上げたと思いますし、よく演じきったなと思います。
〇父親を刺した時の真田広之の表情がすごい
名台詞は他の記事に取っておくとして、最も印象的なシーンが、最終回の前の話の最後、真田広之演じる主人公が、ヒロインの父親を刺すシーン。
同作品の最終場面に並ぶドラマ史に残る名シーンですが、これは圧巻です。緊張感は漂うし、「あーやってしまった」という感じにはなるのですが、それでいて血生臭さを感じず、純粋で儚い。こんなドラマ見たことない。
しかも父親をグサっと刺したあと、真田広之が桜井幸子に見せた、一瞬の笑顔。どこかホッとしたような、すべてを失ってしまったような、そんな感じの表情。どうやったらこんな視聴者に余韻をあたえられるような表情を作れるのか。
このシーンを見るだけで、どれだけこのドラマが一切の妥協を許さず、最高峰のクオリティを目指して制作されたかが伝わってきます。
〇あのラストは高校教師だから出来る技
有名なのが、電車の中で運命の赤い糸を結んで2人が眠っているシーン。死んだのか、寝ているだけなのか、どちらとも取れる、「読者にお任せします」系の終わり方なのですが、
これ、安易に使ってしまうと逆に締まりが悪くなると思うんですよね。「え?結局そういう終わり方?すっきりしないだけじゃないか。作者めんどくさくなって逃げただろ」みたいな。
ですが、高校教師は世界観を初志貫徹した作品なので、このような純度は高いけどぼんやりした感じの状態の終わり方が最高の締め方だったと思います。
このドラマのきっかけは、作者の野島伸司氏が「ギリシャ神話のような話を書きたい」といってTBSに売り込んだのがきっかけらしいのですが、まさに神話のような世界観を残したままの終わり方です。
最後の最後まで徹底的にこだわり抜いた作品として、このドラマは放送史にずっと語られ続けるだろうと思います。