電通の女子新入社員が驚愕の数字と言える時間外労働と、心無い上司のパワハラによって自殺したことが過労死と認定された件が、ここ最近話題になっています(2016年10月現在)。
一方で電通4代目社長の吉田秀雄(1903~1963)という人物が作った鬼十則というものがクローズアップされています。一方で1988年頃に電通社員が作った裏十則というものがあることも最近知りました。
この鬼十則と裏十則を見ると、どちらも驚愕に値するほどの前時代的かつ閉鎖的な日本の大企業を象徴する言葉です。社会的に許されない事件が起こってしまった今、そろそろこの鬼十則が見直されても良いような気がします。
■鬼十則1
鬼:仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。
裏:仕事は自ら創るな。みんなでつぶされる。
これは鬼十則の方が納得いきます。自ら創り出したものでないと、主体的に動けないものです。特に会社を辞めて独立したいなら、自分で仕事を創ることに喜びを見出さないと厳しいでしょう。
しかし、古い価値観の持ち主だらけの大企業で、そんなに好き放題仕事をやらせてくれるところがあるのでしょうか?
ほとんどの実態が裏十則のようになっていないでしょうか?大企業はとにかく目立つ人間を潰していきます。それで仕事が自ら創るべきなんて、よくそんなこと言えるなと思います。
つまり、「仕事は自分で作れ、でも俺たちに逆らうな」と矛盾したことを要求しているのです。閉鎖的で同調圧力の強い日本企業に才能を潰された人は、数え切れないくらい多いでしょう。
■鬼十則2
鬼:仕事とは、先手々と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない。
裏:仕事は先手先手と働きかけていくな。疲れるだけだ。
鬼十則も裏十則も、人の力を借りるという視点が抜けています。どんなに一匹狼でも、人の力を借りなければやっていけません。
そもそも日本の大企業のような古い体質の会社が、そのような視点を持っているとは思えませんが。多くの人は群れることには天才的ですが、支援するということに対しては素人なのです。
■鬼十則3
鬼:大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。
裏:大きな仕事と取り組むな。大きな仕事は己に責任ばかりふりかかる。
そもそも仕事に大きいも小さいもあるのかな。個人事業主や士業の人なら十分理解できますが、大企業で大きいとか小さいとか言われると違和感を感じます。給料も変わるわけでもないし。
それよりも、自分に与えられた役割で自己実現できる環境になっているかどうかが重要と思うのですが。大きい仕事というわりには、どこか社員をこき使おうという心理が見え隠れしていて、少し不愉快になります。
■鬼十則4
鬼:難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。
裏:難しい仕事を狙うな。これを成し遂げようとしても誰も助けてくれない。
この鬼十則には理解を示したいと思いますが、それはあくまで社員が夢を持ってワクワク働いている場合です。
その観点が抜けてしまっては、難しい仕事を狙ってもうつ病で、また自殺する社員が出てくるだけでしょう。
そう、そうなんです。この鬼十則ですが行間を読み解いていくと、どこか大事なことが抜けているような気がするのです。
■鬼十則5
鬼:取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……。
裏:取り組んだらすぐ放せ。馬鹿にされても放せ、火傷をする前に…。
おそらく鬼十則のなかでも、最も批判的になっている人が多いであろう文言です。自分も問題外と思います。
そうか、社員が死んでも良いんですね。今回のように心を病んで自殺してしまう人が続出しても構わないんですね。そう読み取れる文言です。
そもそも人生の目的って何なんですかね?自分や周りの人が幸せになることじゃないですかね?そもそも、この文言には目的と目標、形而上と形而下の違いも分かっていないような悲しい文言です。
■鬼十則6
鬼:周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。
裏:周囲を引きずり回すな。引きずっている間に、いつの間にか皆の鼻つまみ者になる。
この鬼十則もひどい文言ですね。社会調和という観点が完全に抜けています。
そうですか、工場作って有害物質を排水して住民が公害で苦しんでも良いんですね。さすが戦後の日本で作られた文言です。
■鬼十則7
鬼:計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
裏:計画を持つな。長期の計画を持つと、怒りと苛立ちと、そして空しい失望と倦怠が生まれる。
この鬼十則には賛成です。良いこと書いてあると思います。しかし、前述したように目的と目標は違います。
会社に捧げるための計画であれば、とても長期計画を立ててワクワクして仕事することなんでできません。
計画とか目標とか言いますが、そもそもこの会社は社員にどうなって欲しかったんでしょうか?
■鬼十則8
鬼:自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚みすらない。
裏:自信を持つな。自信を持つから君の仕事は煙たがられ嫌がられ、そしてついには誰からも相手にされなくなる。
そもそも自信ってどこから来るんでしょうか?経験の蓄積もそうですが、まずは自己愛に満たされることが先なんじゃないでしょうか?
この会社が社員の自己愛を尊重して承認するようにしていれば、ちょっと時間外労働が常態化したくらいでは、そんなに問題にならなかったでしょう。
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■鬼十則9
鬼:頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。
裏:頭は常に全回転。八方に気を配って、一分の真実も語ってはならぬ。ゴマスリとはそのようなものだ。
これもひどい文言ですね。だって、八方美人になれってことでしょ?これで心が殺された人が、日本に何人いるでしょうか?
■鬼十則10
鬼:摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。
裏:摩擦を恐れよ。摩擦はトラブルの母、減点の肥料だ。でないと君は築地のドンキホーテになる。
言いたいことがわからないこともないですが、これは表現に疑問を感じます。摩擦を繰り返しては、人間関係が全破壊します。たぶん誰も信じられなくなるでしょう。
これ、摩擦ではなくて交渉という表現が正しいんじゃないでしょうか?もっと言うと「分かち合う」ということでもあると思います。
理想はwin-winですが、この文言はどう見てもlose-winです。その前の鬼十則9がその逆の自己犠牲タイプのlose-winのことを言っています。
人間は弱い方へ流されますから、鬼十則9と10をかけ合わせてしまったらlose-loseとなって、取り返しがつかなくなります。
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このような悲劇が2度と起こらないようにするにはどうしたらいいか、思うところを書いてみました。良かったら併せてご覧ください。
コメント
こんにちは。私のブログでもこの話題を取り上げています。しかし、これほど表と裏を対比して解説したサイトはありませんでした。敬服します。簡単に記述した当方の記事も見て頂ければ幸いです。
コメントありがとうございます。たまたま裏十則を見つけて、表と裏を見ると、日本企業の闇の部分が少し見えるような気がして書いてみました。過労死は早く死語になってほしいですね
。ブログも拝見させて頂きましたが、よく考察されていると思います。こちらも敬服します。
阿久田川様、機です。こちらこそブログを見て頂いた上に、お褒めの言葉まで頂き、恐縮しております。私はまだブログ初心者で、見出しもつけないで一気に書くところがあるのですが、今後は阿久田川様のように読みやすいブログが書けるといいなと思っております。今後も人間関係や組織ネタを書くときに参考にさせて貰います。よろしくお願いします。
ありがとうございます。見出しを付けてから書いたほうが、書きやすいこともあります。個人差によって向き不向きはあると思いますが、筆が進まないようなら、見出しを付けてから書いたほうがうまくいくことがあります。