「君の膵臓を食べたい」(住野よる著、双葉社)を読了しました。やや奇抜(?)なタイトルで、しばらく敬遠していたのですが、facebook等の口コミでの評判が高く、結局気になったので読んでみることにしました。
感想としては、食わず嫌いしないでもっと早く読んでおけば良かったと思いました。今回は、この「君の膵臓を食べたい」の書評を書きたいと思います。なお、ネタバレがないように書いていますので、そこは安心してご覧ください。
■内向型人間におすすめ
主人公は、内向型の人間で、それでいてあまり人にも興味がなく、友情とか恋愛にも興味がなさそうで、実際に友達がいない本ばかり読んでいる感じの高校生の男子です。
そんな1人の男子が、たまたま病院で見かけた共病文庫という1冊の文庫本でできたノートを見て、それを書いているのがクラスメイトの山内桜良ということがわかります。
彼女は膵臓の病気を抱えていて、しかももうすぐ死んでしまう運命なのですが、それをみんなには秘密にしてほしいと主人公の男子は言われます。
それをきっかけに主人公と桜良との交流が始まる……、みたいなストーリーです。ちなみに男女の話ですが、後述するように決して恋愛に発展するわけではなく、ありがちな難病もの、つまりカップルのうち、どちらかが病気で死ぬ系とはジャンルが全然違います。
かなり内向型人間の主人公という人物設定ですが、作者がどうしてそういう人物設定をしたのか、そして「君の膵臓を食べたい」という奇妙なタイトルには、どんな意味が込められているのかは、読み進めていくうちにわかります。
もし内向型の人で、それがコンプレックスになっているような人がいれば、もしかしたら自分の価値に気付くきっかけになるかもしれません。
なので、あくまでも個人的な主観ですが、内向型人間の人には結構おすすめな本だと感じました。ちなみに、内向型のなかの内向型人間なので、かなりこの小説は共感できるところがありました。
■生きるとは何か?
では、具体的にどういうことを考えさせられるかというと、これは文中に書いてあったことを抜粋した方がいいでしょう。
「生きるってのはね」
「…………」
「きっと誰かと心を通わせること。そのものを指して、生きるって呼ぶんだよ」
(P192抜粋)
最後まで読んで、この小説のテーマは、まさにここにあるのではないかと思いました。
心を通わせるとは何か、そして、主人公が病気の彼女に与えた価値とは何なのか、それで読者は何を感じたのか、これを言ってしまうとネタバレになるので、ここは実際に手に取って読んだ方が良いと思います。
■人間関係の多様性を認めたい
この小説の面白いところはもう1つあります。主人公と病気の彼女の関係です。冒頭にも書きましたが、これは恋愛ものではないです。近いけど違います。
だからといって友情ものかと言われると、それもどうもしっくりこない。主人公の2人の関係が、恋人でもなければ、異性の友達というわけでもない、仲間という感じも、どこかしっくりは来ない。
そもそも登場人物のセリフが、「仲良しくん」とか「仲のいいクラスメイトくん」とか「根暗そうなクラスメイトくん」とか、しまいには「?????くん」とか、名前で呼び合わないところが面白い。ちなみに、この理由も読み進めていくとわかります。
そもそも、自分たちは周りの人間関係をどう思っていたのか、そんなことすら考えさせられます。どうしても友達とか、仲間とか、彼女とか、家族とか、上司とか部下とか同期とか、そういうくくりで人間関係を枠にはめようとしていたのではないか。そんな気すらしてきたのです。
人間の悩みの85%は人間関係と言われますが、この悩みは、人間関係をどこか枠にはめようとしている自分達がもたらしているのかもしれません。
何も近い関係だけが大切な人間とは限りません。会社や学校を見渡してください。隣の席の人は大切な人でしょうか。決してそうとは限らないですよね。
この小説の主人公の2人のように、どこか正反対の性格で、どこか適度な距離を保ちながら、コミュニケーションを取れる、そんなゆるい人間関係も素敵ではないでしょうか。
人間関係の多様化を認めるということは、違う価値観を認め合うということです。そんなことにも気付かされる1冊です。
※豪華声優陣で作られたオーディオブックもどうぞ⇒オーディオブックの感想はこちら
■「また、同じ夢を見ていた」の感想
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君の膵臓をたべたいの著者の第2作の書評です。こちらも考えさせられるけど、優しいテイストの小説です。個人的には、こっちがおすすめかな。
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君の膵臓をたべたいを抑えて、2016年の本屋大賞を受賞した、「羊と鋼の森」の書評です。好みの分かれる小説と思いますが、仕事している人であれば、何かしら影響を受けるシーンが出てくると思います。