平松さんの文章を読んでいたら、まるでごはんをつくってもらったみたいに落ち着いてきた。夜中にそっととなりの部屋にいてもらったみたいに。
だからこそ、この本は眠れない夜の子守唄みたいに優しいのだ。いつかどこかでだれもが、このような優しいメニューに抱かれた思い出を持っている。
これは「忙しい日でも、おなかは空く。」(平松洋子著、文春文庫)の最後に掲載されている、よしもとばななさんの解説です。
読んでいて心が落ち着く本。日常の何気ない幸せに触れることができる本。たまに、こういう本が読みたくなる。誰にでも経験があるような日常の風景を淡々と描き、だんだんと穏やかな気持ちになっていく。
この平松さんの著書は、まさにそんな本でした。それこそ忙しい日、疲れた日に読むとホッと一息つけるような本です。
■素朴な料理の小さな幸せ
この本は、いろんなシンプルなレシピや、調理器具をテーマに書かれた、短めのエッセイを49個集めたものです。
この49個のエッセイ集が、「あー、この瞬間幸せだよなあ」と思えるような話ばかりで、読んでいて穏やかで、微笑ましい気持ちになっていきます。
料理の項目については、各エッセイの最後には、作り方が掲載されているので、レシピ本としても使用できるのですが、たしかに、これは作りたくなる。
だって、この本で書かれているようなことをリアルに再現して、リアルに小さな幸せを感じていたいから。
もし、毎日がコンビニやファーストフードだけの食事になっていて、食事そのものに幸せを感じていないのであれば、この本を読むと、食べているときの素朴な幸福感を思い出すかもしれません。
■好きなレシピのところだけ読む
ちなみに、僕はこの本の全部を読んではいません。比較的好きな食べ物についてのみ読みました。
ここに出てくる料理は、塩トマトや冷やしなす、けんちん汁に鶏の唐揚げ、たくあん、白菜キムチのような、日常的によく見る料理や、梅干し番茶、梅干しごはん、雑穀おにぎりのような素朴な食べ物がほとんどです。
そこには高級料亭に出てきそうな料理は出てきません。ですが、登場するのは、昔から愛されているお馴染みのメニューです。それがまたこの本の魅力なんだと思います。
ただ、調理器具に関するエッセイもありましたが、自炊しない僕は、あまり関心を持たなかったので読み飛ばしました。
また、甘いのはそんなに好きではないので、フルーツに関するエッセイも読み飛ばしました。おそらく多くの読者が興味を引くであろう唐辛子シュガーも読み飛ばしました。
各エッセイにはレシピの写真が掲載されているので、「これ、なんか良いなあ」と思ったらそこだけ読めば良いと思います。自分の好みの食べ物の箇所を読むと、どこか素朴で優しい文章に魅せられてしまう。
おやすみ前に読んでも良いかもしれません。「これだったらすぐに作れそうだな。明日作って晩酌してみるかな」とか、未来に対する小さな楽しみが出てくるかもしれません。
きっとこれからも、疲れてきたら寝転がって、どこか適当に好きなページを読み返していくと思います。