とても印象的なノンフィクションに出会いました。今回紹介する本は、「傷口から人生。メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった」(小野美由紀著、幻冬舎)。
人生につまずいた時や、生きるのがしんどいと感じた時、今はもう辛い時期を脱したこれども、そういった時期を経てきた人であれば、かなり共感のできる本ではないかと思います。
■衝撃と希望の人生格闘記
読んでいて感じたのは、著者は相当苦しみ抜いた時期があったのか、しんどい時の心境や、生きづらさを感じながら生きている時の心情を、きれいでさらりと、それでいてストレートに響く言葉で綴っているんですよね。
この本で書かれている精神的なひきこもり期間に、著者が何を考え、どう自分と向き合い、そして、どう自分と距離を取っていったか、スペイン巡礼の旅で何を感じ取ったか、かなり勇気づけられるのではないかと思います。
苦しい経験がある人なら、誰でも「うわ、これわかる」という気持ちになると思います。
■生きるのが不器用な著者の壮絶人生
慶応義塾大学文学部卒、TOEIC950点、英語がペラペラ、見た目の肩書きだけは華々しいといえる著者の経歴ですが、その一方で著者本人には失礼な言い方かもしれませんが、決して器用な生き方をしている人ではないです。
過剰なまでに教育的で抑圧的、それでいて肝心な時に目を合わせてくれない、本当の気持ちをわかろうともしない母親との関係がしんどくなって、中学3年時にリストカット、そして不登校。
一度入った大学は馴染めなかったり、モテない自分にコンプレックスを抱いたりして仮面浪人(慶応は浪人を経て入学した大学らしい)。他人からイケてる自分でいたくて、過剰に人の目を気にする。
一流大学を出て、一流の大企業に就職活動するのは、自分自身、さらに鎧を身につけたいからなのか。でも、そんな日々に限界が来たのか、就活中にパニック障害。就活を断念してスペイン巡礼の旅に出かける。
スペイン巡礼後、ニートを経て、いろいろ仕事するが、著者曰く言うのが恥ずかしいくらい仕事ができなかったらしく、クビになったりしていたという。
著者の告白する仕事のできなさっぷりは、これまで仕事で「おまえ使えない」「給料泥棒」と酷評されてきた人でも、「これはさすがにちょっと」と思えるほどかも。
それでも著者は今はこうして出版したり、webで記事を書いたりして、ライターとして生きている。自分自身をしっかり受け入れているような感じは、少なくとも母親に抑圧されていた時代よりは幸せなのではないか。そうでなくとも、どこか陰ながら応援したくなる。読後、そんな気持ちになる1冊です。
ということで、心に残った文章について、以下にいくつかシェアしていきたいと思います。
■心に残った文章(原文まま)
人生と、旅の荷造りは同じです。いらない荷物をどんどん捨てて、最後の最後に残ったものだけが、その人自身になる。歩くこと、旅することは、その「いらないもの」と「どうしても捨てられないもの」を識別するための作業なんですよ。
同じ学校で不登校の子どもは一人もいなくて、学校にいかなくなれば、人生は終わると思っていた。でも「世界の果て」だと思っていた場所には、実は、その先があった。
自分を認めない他人を恨む。同時に、自分が他人を馬鹿にすることに対して、鈍感になる。他人と同時に自分を叱責していることに、気づかなくなる。
自分の、魂の速度で生きることなのよ。魂は、心と身体の一致したところにある。心が先でも、身体が先でもだめ。重要なのはね、あなたがあなたの速度で生きることなのよ。
人と足並み揃えて、協調できる私。空気の読める私。人より先に、考えて、答えを出せる私。そうやって、空気の人形みたいに、理想の私を作り上げて、それで勝負しようとしていた。でも、それは、ウソなのだ。
自分のペースを守りなさい。そうすれば、ある時、自分のペースと、社会のペースが、かみ合う時が、必ず来るから。
小さい頃から、人と同じことが上手くできない。何より、それを気にして、うまくふるまえないことがコンプレックスだった。それを人事に悟られないよう、必死で隠し通すのが私の「就活」だった。
この道中、俺は度々大声で泣いたし、恥ずかしいけど、怒りをぶつけたこともある。でも大丈夫なんだ。それが心の奥底からの本当の感情なら、必ず誰かが受け止めてくれる。それに、そうしてみて、思うんだ。自分の国で、出さないように抑えていた感情は、本当に我慢すべきものだったんだろうか?って
ネガティブは悪いことじゃない。病気になったり、落ち込んだり、悩んだり。一見、マイナスに見える人こそ、実はとんでもないエネルギーを秘めている。ネガティブな感情は、その人の可能性だ。ただ、本人が気づいていないだけなのだ。
同時に、なんで私がモテないのか、分かった気がした。自分が無いから、モテないんだ。
皆、完璧じゃない。この道に来た人たちは、一度、人生のコースから外れて、行き先の分からない道を歩みはじめた人々だ。
弱いから、脆いから、周りの人と一緒に生きて、強さを生み出せるんだ。弱さの発する白熱灯のような、ほの白い光のあたたかさを、手のひらで感じられるだけの感応力。それがあれば、私たちはいくらでも人と、つながれる。
病むということは、社会の中で「多くの人が、気にはしているけどなんとなくそのままにしていること」に気づける能力があるということだ。
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傷口から人生の著者が文章を担当した絵本の書評です。良かったら、こちらも併せてご覧ください。
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「傷口から人生。」でも紹介されているスペイン巡礼について絞って書かれた本です。実際にスペイン巡礼に興味を持ったら、ガイドブック的にもなっているので、一読してみても良いと思います。