人生、例えば仕事や人間関係に少し疲れたと感じると、ふいに旅に出たくなることがあります。今回紹介する本が「人生に疲れたらスペイン巡礼 飲み、食べ、歩く800キロの旅」(小野美由紀著、光文社新書)という旅エッセイです。
世界的に大ブームになっているという、「カミーノ・デ・サンティアゴ」という最長800kmの巡礼の旅の魅力を伝えている1冊。
同じく小野さんの本で「傷口から人生。メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった」でもスペイン巡礼のことが描かれていますが、今回は、そのスペイン巡礼に絞って書かれています。
■カミーノ・デ・サンティアゴとは
カミーノ・デ・サンティアゴとは、キリスト教のカトリックの3大聖地である「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」を目指す最長800kmにも及ぶ巡礼の道です。
手法は問わないみたいですが、基本的に歩いていきます。会社を辞めたとか、比較的時間のある人は1ヶ月くらいかけて800kmもの道程を進んでいくこともできますし、
会社員で休みが限られていたりする場合は、何回かに分けて行っても良いのです。つまり、2回目は1回目の終からスタートする感じで、ちょっとずつ進んでいく。10年くらいかけて800kmの巡礼に行った人もいるそうです。
乱暴な例えかもしれませんが、四国の八十八箇所巡礼のキリスト教版という感じでしょうか。八十八箇所も何回かに分けて巡礼の旅に出る人多いですよね。
これが世界的なブームになっているそうです。特に2010年に、スペイン巡礼を題材にした「THE WAY」という映画が公開されて以降は。スペイン巡礼について知りたい人は、「THE WAY」「サン・ジャックへの道」の視聴が、この本で勧められていました。
■どういう人と触れ合うか
巡礼前に、パスポートとなる「クレデンシャル」を交付してもらい、「アルベルゲ」と呼ばれる格安の巡礼宿に泊まりながら、800kmの道程を進んでいきます。
この本や「傷口から人生。」にもよく出てくる言葉として、「いらないものを捨て去り、最後に残る自分は発見する」というのがありますが、
アップダウンのある道のりなんかもあり、かなり体を酷使して、疲れてクタクタになるようです。そうしていくと自意識が空っぽになって、突然自分の本当の望みや答えが心の内側からふつふつと沸き上がってくるそうです。
そのためか、「自分が次にするべきことを見つけたくて」「自分の人生を考えたくて」巡礼に訪れる人が多いそうです。
著者がスペイン巡礼に行った時の心の状態を、おそらく最も端的に表現されているであろう箇所を引用します。
余計なものを捨ててしまいたい。ぐちゃぐちゃに複雑骨折したプライド。無意味になってしまった、これまでの仕事。いらないものをたくさん溜め込みすぎて、漬物石みたいに重-くのしかかる、私のでっかい頭。旅に出て、何かが見つかると思うほど子どもじゃない。でも、逃げることくらいしか、今の私にできることはない。
■語学の壁は?
そんな巡礼の旅ですが、もし1人で行く場合、気になるのが言葉の壁。僕も英語には自信がないし、スペイン語なんてまったく話せないのですが、そもそもこの巡礼の旅は、英語も話せないスペイン人が、スペイン語でめちゃくちゃ話しかけてくるそうです。
スペイン語が話せなくても、「なんとなく」で通じてしまう、「なんとなく」で仲良くなれるそうです。そして、英語に自信がなくても、「なんとなく」で通じてしまうそうです。
結果的に、不安なく、恐れなく、自分でもできる限りの英語を話していくことになるので、結果的に語学は少し上達していくかもしれないそうです。
■旅に出会った人の言葉
この本では、著者が出会った様々な人が出てくるのですが、その人たちの発する言葉がとても印象的で、読んでいるこっちも心が軽くなります。
特に印象的なのが「take your time!」(あなたのペースで)というカリフォルニア出身のリタさんの言葉ですね。
組織で働いていたりすると、相手に良い面を見せようとして、成果を出そうとして、自分のペースを知らず知らずのうちに乱したり、心にもないことを話していたり、本音を語らなくなったりしする。
本当のやりたいことと、現実の仕事に大きなギャップが出てきても、誰にも相談できなくなり、結果的に心が壊れてしまう。周りからは「こいつ、何考えているかわからない」と思われる。
僕もそういう経験をしてきたので、このリタさんの言葉が本当に印象に残りました。以下本文抜粋。
「急がなくてもいいのよ」リタが言った。
「そうすればそのうちきっと、あなたのペースと、社会のペースが、噛み合う時が来る。ミユキ、あなたが歩んでいるのはね、他でもない、あなただけの道なのよ」
■同じ著者の本
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同じ著者の本についても書評を書いています。今回紹介した本はあくまで旅エッセイという感じですが、著者の不器用ながらも壮絶な人生が語られているのは「傷口から人生。メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった」の方です。
「ひかりのりゅう」は著者が文章を担当した絵本になります。いまの現代人にとって、必要なものは何なのか、必要以上に抱えすぎではないか、個人的にそんなことを考えさせられた絵本です。